長きにわたって愛されるセラミッククラウン
私が歯科医師としてこの仕事に就いたばかりのころは、「せとの歯にしてください」とか、「いいやつにしてください」とオーダーされることが多かったように記憶しています。
「せと」とは、瀬戸物(焼き物)のことです。「いいやつ」とは保険が効かないことを表しています。
*セラミッククラウンは瀬戸物と同じように焼き上げる工程がありますので、それらの工程や工法から「せと」と呼ばれることが以前は多くありました。人によっては「せと歯(せとば)」とも呼ばれていました。
今でもご年配の方や、言葉がうまく出てこなかったときに「いい歯」とか「高い歯」という表現をされる方は多いです。これらはすべて、セラミッククラウンのことを言い表しています。
セラミッククラウンが多くの人に好まれる理由
1.美しい
2.自然である
3.感触がつるつるしていて唇がなめらかに動かせる
4.色が変わらない
5.長持ちする
6.ステータスとしての価値がある
1~4は、わたしもそう思いますし、これまで治療を受けられた方がオーダーされるときによく口にされていた理由でもあります。
5に関しましては、健康保険の歯も長持ちさせることができますので、セラミッククラウン限定の理由ではないと思いますが、長持ちすることを理由にセラミッククラウンを選ぶ方は少なくありません。
6は、立場のある方や、人前に出て活躍されている方たちのコメントとして見聞きすることがよくあります。
「長持ちする」の真偽について
なかなかむずかしい問題ですので、材料の性質や作製上のポイントなどについてふれながら考えてみたいと思います。
健康保険に採用されている前歯のクラウンは、硬質レジン前装冠といいます。硬質レジン前装冠は、金属のキャップを作っておいてから、その表面に白いレジン(樹脂製の材料)を接着するしくみになっています。
金属にもレジンにもある程度の弾力がありますから、歯に対するなじみや安定感はすぐれていると思います。土台となる歯(歯根:しこん)が健康であれば、硬質レジン前装冠はその歯にとどまり続けることができます。
そのような意味で、硬質レジン前装冠は長持ちするクラウンであることはまちがいないと思います。
けれどもレジンは色が徐々に濃く変色したり、飲食物によって着色したりします。そのほかハブラシによる摩擦で表面がけずれるなどの変化や劣化が起こります。このように長持ちはするけれども物質的な変化が起こりやすい特徴がありますので、変化に応じて取り換える必要があるということを知っておく必要があります。
一方セラミッククラウンはレジンのような極端な変色はありません。着色に関しましても、レジンほどの着色は起こらないと考えてよいと思います。これらの点はセラミッククラウンの長所であると考えます。
ただし先ほど、金属やレジンにはある程度の弾力があると説明しましたが、セラミッククラウンには弾力がほとんどありません。弾力がないということは、じょうぶであるということにもなりますが、不用意な力、たとえば食べ物をかむときの過度の圧力や、寝ている間の強いはぎしりの力が加わると破損することがあります。この点はセラミッククラウンの短所ということになります。
破損を未然に防ぐ方法として、わたしがいちばん大事していますのは、かりばの段階で、その方のかみ合わせや顎の運動の状態を十分に調べて整えておくということです。かりばで確認できた情報をセラミッククラウンに反映させることで、こわれにくく長持ちするセラミッククラウンに仕上げることができます。
さらにセラミッククラウンが装着された段階で、はぎしりやくいしばりを緩和させるマウスピースを使用していただくようご案内させていただいています。
まとめですが
セラミッククラウンは、適切に作ることができれば長持ちすると思います。当医院では保証期間も設定していますので、安心して使用していいただいてだいじょうぶです。何かありましたらお知らせください。